meta.kimura

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【ネタバレ注意】半沢直樹をどうみるか?

 半沢直樹が最終回を迎えたらしいですね。ちょうどそのころ出身の学生寮に帰っていたのですが、食堂では寮生総出、とでも言えそうなほどの人数が集まって、テレビを眺めていました。なんという半沢人気。最終回の視聴率は40%を超えて、平成の民放ドラマでは1位、ってことになったみたいです。次の日にはあちらこちらから「倍返しだ!」と聞こえてきて、わたしは「なんだかなぁ」って感覚を避けられませんでした。目には目を、歯には歯を、ってのはハンムラビ法典でしたか。倍返しだから、それよりヒドい。みんなそんなに仕返ししたいんでしょうか。。。

 まず、断っておきますと、わたしはドラマ『半沢直樹』を見ていません。家にテレビありませんし。最近、原作になった『オレたちバブル入行組』を読んだだけです。『オレたち花のバブル組』は未読です。その程度のわたしがこの文章を書いている、ということは予めご了承くださいまし。m(_ _)m

 さて、この作品をどうみるか、ということに目を向けていきましょう。賢明な方はお気づきの通り、この作品はいわゆるフィクションです。何を当たり前のことを言っているのか、って言われそうですね(笑)。フィクションと言うより、ファンタジーに近い、という方が伝わりやすいでしょうか。とってもエンターテイメントなんです。
 それは、なぜだか知りませんが「しっかり取材された感」がないからです。著者の池井戸潤氏は銀行出身の経歴を持っているハズ。にも関わらず、支店長の浅野は「株」で3000万の損失をしています。銀行員って株式売買できたっけ?って思ってしまいませんか?(調べてみるとできなくはないそうですが、インサイダーになる可能性があるため、あんまりやらない方がいいみたいです。各銀行の就業規則によるところもあるみたい)しろーとのわたしでさえ、疑問をもってみてしまうような設定をココにもってくる必要って何でしょうか。
 近藤が統合失調症なのも気にかかります。ストレスでうつ病、ならわかります。でも、統合失調症なんですよね。そうすると、、、と考えてしまう。要するに、わざわざ話がややこしくなりそうな設定を持ってきていることに違和感を抱いてしまうのです。そこはかとなく「取材されてない感」が漂っている。それがわざとだとしたら、と勘ぐってしまいます。

 設定が現実に合っていない、ということは、その物語のファンタジー感を強めます。空想の物語だよ、と強調しているようです。組織の愚鈍さを暴くとか、社会矛盾を描くとか、そんなことは横に置いておいて、の話なのです。そもそも、小木曽みたいなやつはいない。(いや、いるかもしれんけどw)その上で、半沢は活躍し、仕返しをしていきます。

 そして、小説終盤の浅野に対する仕返しはかなりエグい。ご都合主義的に登場する浅野の家族とかはさておき、それにしたって、仕返しし過ぎです。浅野が可哀想になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。執拗にメールでいたぶりますよね。もう、見てられないぐらい。で、最終的には浅野を利用してのし上がる。わりとダークです。勧善懲悪物語の代名詞ともいえる夏目漱石の『坊っちゃん』だと、のだぬきと赤シャツをぶん殴ってそのまま職を辞します。半沢は土下座させて、上にのぼります。「勝ちに行く意志」が強すぎて、もはや滑稽です。

 その滑稽さがこの作品のメッセージなのではないか、と思ってしまいました。

 現代が経済成長の時代ではなさそうだ、ということは、もう、みんな知っていることだと思います。それこそ東田のように、中国や東南アジアに出ていかないと、一旗揚げるなんてムリです。相当むずかしい。(余談ですが、10億持ってどこかでゆっくり暮らす、ではなくて、中国で事業を起こそうとしていた東田の野心には感服します。腐った銀行に資金がもどるより、東田が持ち逃げした方が社会的な価値があったんじゃないか、とか考えてしまうほどにw)その中で、バブル入行組は自分の「勝ち組幻想」を捨てられない。出向して、それなりの給料を貰って暮らしていけない。もう、エリート志向が止まらないのです。
 ここには現在の価値観とのズレがある。バブルの頃との大きなギャップがあって、それが埋められなくて、埋める気もなくて、結果として、現在の価値観から見るとすごく滑稽に見えてしまう。だからドラマでも、わざと演出をきつくしていたのではないのでしょうか。これがバブル価値観の生きる道なのであって、それをある意味自嘲しているようにさえ見えます。どうにもわたしには、著者が「半沢みたいなサラリーマンが増えて欲しい」と願っているように思えないのです。

 だから、ファンタジックにした。だから、主人公のダークさを強調した。

 そして、この自嘲的な構造は「中二病」と同じです。ニコニコ動画に「中二病でも倍返しだ!」ってMAD動画が上がってましたが、まさしく、その通り。上司に向かって「倍返しだ!」なんて言ってる奴は、夢見がちな中二病患者でしかありません。正直、イタい奴です。そのイタさの奥の方に純真な夢を抱いている点も、同じです。
 半沢はサラリーマンになっても中二病を引きずってるやつなのです。でも、わたしはわりと中二病を引きずってるやつが好きだったりします。ややもすると、周囲からイタいと思われるようなことを語れる人というのは、貴重な人材だったりするのです。倍返しなんかする必要がないぐらいに、素直に志を話せる環境になったらいいなぁ、とは思います。

 ちなみに、小説に「倍返し」って言葉出てきましたっけ??? (;・∀・)



 m(_ _)m

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