meta.kimura

感情の率直と、思索の明澄と、語と文との簡潔とです。

『下り坂をそろそろと下る』そろそろと、その下り坂を踏みしめるように。

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 話題になっていたのもあって、読みはじめた。読みはじめたものの、途中で気分が悪くなってしまった。焦りとか、危機感とか、そういったものがむくむくと、やたらに自分の中に湧いてきたように思う。
 よくわからない感覚を抱えて、どうにも消化しきれず、少し間をあけて読まねばならなくなった。3章まで読んで、そこでひと区切り。一週間ほど、他の本、漫画とかに逃げて、そのあとやっと戻ってこれた。それでも、4章から6章までを読むのには体力が必要だった。
 文章は平易で読みやすい。内容が難しいわけでもない。何がそんなにしんどかったのか、言葉にできないことも多い。敢えて言葉にするなら、平田オリザの本気に、その覇気にあてられたようなものなのだと思う。

●◯。。。...

 平田オリザは本気である。本気で何かを伝えようとしていて、だからこんなに力強い本になったのだろう。日本が既に衰退期にあることを、その現実を直視することを、その中で少しずつ起こっている取り組みを、淡々と描いていく。激しさは、ない。煽るような文体とも思えない。話題もそれほどまとまっているわけじゃない。むしろ、話はあちらこちらに飛ぶ感さえある。
 本当に真剣で、マジだからこそ出てきた文章なのだ。着実さが、ぐっと踏みしめていく一歩一歩が、徐々に読み手に響いてくる。溢れ出るような文となった思想が、書かざるを得なかった背景を思わせる。わたしのように、地域だの社会だのという文脈に、表面だけで関わっているような奴は、知らぬ間にその毒気にかっさらわれてしまったのだ。
 やばい、やばい。この人、本気だ。この波はきっと、自分にも及ぶ。影響が出てくる。知らずにはおれない。置いておけない。どういう姿勢をとったらいいだろう。それ以前に、そんな姿勢をとることさえ、自分にできるのかどうか、わからない。

●◯。。。...

 平田オリザは真正面から言い放つ。日本に勝ちはない。負けない程度の後退戦を甘んじて受け入れ続けるしかない。大きな成功や躍進とは無縁の世界を、それこそ歯を食いしばりながら生きていく。そんなこと、わたしにできるだろうか。そういうライフスタイルしか残されていないことは知っていたし、そういう生き方でいいと思っていた。けども、改めて突きつけられたリアリティには、一層の迫力があった。
 そろそろと、おっかなびっくり下る、下り坂。救いになるのは、ポッケに入っていたひと握りの「文化」である。これから襲いかかってくる夕暮れの寂しさに、それでも、その雰囲気を味わえる文化を、大切に、大切に、育てていかねばならないのだろう。

 

m(_ _)m