meta.kimura

感情の率直と、思索の明澄と、語と文との簡潔とです。

文体と立ち居振る舞い

f:id:meta-kimura:20190812125420j:plain

 何か伝えたいことがあるとして、そいつをひとまずメッセージと呼ぶことにする。そのメッセージを文章にのっけて、相手に届けようと考える。このとき文章はメッセージの乗り物になる。では、乗り物はどのように着飾られているか。
 例えば会社で、同僚に。前にお願いしていた書類が思ったより早く必要になってしまったので、明日までにつくって欲しいと伝えるメールは、どんな乗り物に乗せるだろうか。とにかく速いスポーツカーに乗せるか、どこか牧歌的な軽トラに乗せるか。居丈高な高級車では角が立つだろうから、きっと控えめな大衆車に乗せる人が多いと思う。
 わたしが書くなら「申し訳ないけど、できれば早く欲しい」というようなテイストになる。下手に出る。文章にだって、上手や下手もあるし、マウントを取りにいくような依頼文だって書けてしまう。それってとても当たり前のことなのだけれど、当然過ぎて意外と見えていないことがある。
 目は口ほどにモノを言う。人は見た目が9割。ならば、文章だって文体が9割かもしれない。何を書くか、よりも、どんな乗り物に乗せるか、の方が重要であることが、実は、結構ある。

●◯。。。...

 一昨日、久しぶりにワークショップなところにいた。一応企画段階からお手伝いさせていただいたワークショップの、本番だった。参加者の熱を浴びながら、やっぱりワークショップにも「体」があるなぁ、と思った。参加者がどんな気持ちで来ているか、とか、どういう系統の人が集まっているか、とかもあるし、その参加者とスタッフとの関係性もあるけれど、やっぱり決め手は前に立つ人のまとう雰囲気なのである。ああいうのは、真似ができるものじゃない。
 個性だから、とか、人間力だねぇ、なんて言ってしまうと、そこから先に進めなくなってしまうのだけれど、その類の言葉で、言葉にならない雰囲気感を表現してしまいたくなってしまったりもする。それはかなりの部分が、今のところは職人芸になっている。磨けないわけではないけれど、磨き方がちょっとわからない。そんなものである。ベースのところは、演劇のトレーニングで整えられるような気もしているけれど、ワークショップ用に体系化されているものは見たことがない。

●◯。。。...

 立ち居振る舞い、とはいえど、その人の佇まいはその人に宿ったもので、胸を張ればいいのはいいけど、胸を張ればいいってものじゃない、という、小難しい事態に陥ってしまう。そのくせ、である。そのくせ、まとう雰囲気感に大変多くのメッセージが乗っかってしまうから厄介だなぁ、と思う。ワークショップで言えば、前に立つ人が楽しげに動けば楽しさが伝わってくる、ようなことである。だからといって、楽しげが空転すると楽しさは伝わらないので、厄介なのだ。
 そうなると、メッセージと、メッセージが乗っかる人との一致感はひとつの大きなポイントになる。乗るモノと乗り物がズレてしまうと、いくら言葉を積み重ねても、なんだか納得がいかんなぁ、ってなことになるのだろう。
 これが立ち居振る舞いじゃないくて、文体だったら、なんとか誤魔化しが効くのだろうか。テキストデータだからこそ人間性がどかーんと出てしまうのかもしれないけれど、立ち居振る舞いや見た目のように、整形ができないものではない。あと、おもしろいなと思うのは、他人にそのデータを手渡して、手直しを受けることができるというところである。見た目を混ぜるようなことが、文章だとできてしまう。やった人を見たことはないけれど。
 結局は、文章を渡して手直ししてなんて労力をかけられるほどヒマな人もいないから、なのか、文体も職人芸になる。ほんとは学校教育で文章のトレーニングをした方がいいと思うのだけれど、文章を教えられる人は、なかなかいない。

●◯。。。...

 メッセージばかりを意識してしまう。荷物は届いたかどうかが重要であって、どうやって届けたか、どんな人に持っていってもらったか、は、どうでもいい。これをメッセージ主義と名付けてみる。これと同種同類の現象から、少しずつ離れていかないといけないと思う。
 品質のいい製品が生産されていれば、どんな生産方法でもよいのかといえば、そうでもない。環境負荷が問われて、働き方が問われて、社会的責任を自覚しつつある。もっと方法の、まとう雰囲気の、価値を高めていく必要があるのだろう。
 その価値に、お金の動きをあわせていかないと、とも思うのだけれど、さて、そうなっちゃうとなんか気持ち悪くなってしまいそうな気もして、ふむと考えてしまう。

 

m(_ _)m

 

 

技法以前―べてるの家のつくりかた (シリーズ ケアをひらく)

技法以前―べてるの家のつくりかた (シリーズ ケアをひらく)