meta.kimura

感情の率直と、思索の明澄と、語と文との簡潔とです。

『わたしたちの生活保護』 石黒好美編著、白井康彦監修

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 友人が本を出した、ってことで読んでみた。なんか、こういう話がちょいちょい出てきていて、みんな活躍するようになったんだなぁ、と眺めている。
 実際、ぼくも大概おっさんになっていて、ぼそぼそと事務やりつつ、それなり呑気に日々を過ごしているが、周りを見ると結構いい立場になってる奴がいたりして、羨ましくないわけでもなく、そんな立場になりたいわけでもないというのは、アンビバレントなもんだなぁ、と、我ながら思う。とりあえず、本を書くのは大変そうだ。

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 さて、生活保護。なんか言いたいことはたくさんあるような気になる。だけどまず、ぼくは「この制度ってすんげぇ素晴らしいもんだなぁ」と思っていることを書いとかなきゃならんのだろう。ほんとに困ったときに、健康で文化的な最低限度の生活を保障してくれる制度ってのは、ありがたい。特にぼくらの世代ぐらいからは、将来的にお世話になる人も増えるだろう。年金があてにならなくなった場合、最後に足らない分を補填してくれるのは生活保護だ。
 いくら貯蓄があっても、どんだけ生きるかは自分じゃ決められないし、貯蓄が尽きたら我慢せずに生活保護を受けられる世の中であって欲しい。世間的に、生活保護は恥、みたいなのがあるらしいけど、そういうのはちょっと勘弁なのである。
 少ない年金で、貯蓄がなくなって、足らない分は生活保護。そういう人が増える時代を生きるのだろうなぁ、と思っている。

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 ほんで、本書の話。2013年の生活保護費の引き下げを不当として訴えたのが「いのちのとりで裁判」らしくて、その地裁判決が出たとのこと。執筆時点では、名古屋地裁で敗訴、大阪が勝訴で、札幌、福岡と敗訴が続き、1勝3敗。んー、この裁判に関しての知識がこの本以外にないので、この結果が妥当なのかどうかはわからない。ただ、まぁ、原告側の話を読むには、ちょっとこれはイカンのじゃないか、という判決になっている気はした。
 特に引き下げに至るまでの行政手続きに不備がある、って点は問題にすべきだろう。本に書いてある通りの統計不正があったのであれば、それは明らかにおかしい。生活保護費を引き下げるためにデフレを強調した、というロジックには説得力があった。これが事実であれば生活保護どうこうという話でもないだろう。行政が恣意的に統計値を操作した、なんて、あんまり許されることではない。
 裁判的にはそういう不備を客観的に突いていくのがいいんだろうなぁ。正直なところ、生活保護費を下げられると生活がタイヘンなの!って言われても実感が湧かないのだ。

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 「いのちのとりで裁判」ってなネーミングにも、なんかひいてしまう、残念なぼくである。引き下げ額のイメージを見ても、そうなんかぁ、としか思えないのは、想像力の欠如なのか、厳しい収入で生き延びてきてしまったからなのか。
 いろいろ複雑な計算があるらしく、世帯とか、年齢とか、住む地域によって変わるみたいなんだけど、例えば、都市部に住む夫婦と小中学校の子供2人の4人世帯だと、月額22.2万円が20.2万円になったってことらしい。うん、1割下がるってのは大変だと思うけど、この実額を見ちゃうとまぁ、なんとかなるんやないの?とも思えてしまう。月20万って、地方民にとってはなかなか超えられない壁だっだりするから。むしろその低収入の方が問題なのだ。
 本書の中では、名古屋地裁の判決は「別にいいじゃん」判決だ、ってな話が出てくる。ぼくはそのええやんか感にも共感してしまう。社会保障費膨らんでるからなぁ、とか、そんな事情も考えちゃって、「いのちのとりで」的な切実さが、まぁ、わからないのである。
 この点に温度差があることを、世論をつくろうとする側は知っておくべきだろう。引き下げろー!って言ってる人は多分極少数で、国のお財布も厳しいんやろうし、まぁ、引き下げってのも仕方ないんやろうなぁ、ぐらいの人の方が、おそらく多い。だから、金額どうこう、生活どうこうでは共感は得にくい。と、思う。

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 市民活動って、どこかやっぱり、活動家、みたいな匂いをまとっていて、ちょっと近寄りがたい。こういう裁判だと、さらにその匂いがきつくなる。社会的理不尽に対する怒りの持ち方だろうなぁ、と思う。憤っている。それはひしひし伝わってくる。その感じに、ひいてしまう。冷めた目で見てしまう。
 個人的には、こういう怒り方は好きじゃない。その勢いに任せて、論点から脱線した攻撃をはじめてしまっているのは、勿体ないなと思う。おかしいことをおかしいと言う勇気は、尊敬されるべきものだ。ただ、それが怒気に囚われたときに、妙な感情を引き寄せる。バランスのとり方は難しいけど、きちんとバランスを意識しておいてほしいなぁ、と思った。
 ところで、この装丁、ちょっと怖くないか。


m(_ _)m